監督目線で戦術を考えるとサッカーはもっと面白くなる

2017年9月6日

監督目線で戦術を考えるとサッカーはもっと面白くなる

スポーツはフィジカルの強さも重要ですが、メンタル面もプレイの結果を左右します。心技体の三つがそろって機能して、はじめて好結果が得られます。

サッカーの場合、この心技体を実際に発揮するのは選手です。特にこの中で「体」以外の「心と技」に関しては、チームを統率する監督が大きな役割を果たします。監督が組み立てる戦略によって選手のモチベーションを高めると同時に、どのような作戦を用いるかが試合の展開と結果に大きく影響します。

観戦しているサポーターが一喜一憂するサッカーの戦術について、自分が監督になったつもりでいろいろと思いを馳せてみることにしましょう。

サッカーの戦術は守備のために発展してきたという説

サッカーの試合でほかのボール競技との大きな違いは、全体の得点数が比較的少ないことです。多くの場合、1:0、2:1、3:2などが多く、5点以上点差が開くような試合はあまりありません。

これはサッカーの戦術の基本が得点を相手に許さないということにまずは重点が置かれるからです。しかし、実際のトーナメントやリーグ戦では得失点差で先に進めるかどうかなどと言う試合もあります。そこで勝つためには、失点を少なくして多くの得点をしなければなりません。

そのような試合での戦術は、失点しないことに重点が置かれるのはもちろんですが、その上でいかにして多くのゴールを決めるかという戦術が必要になります。

まずは得点を許さないこと。ここに重点が置かれていることから、サッカーの戦術は守備の進歩とともに発展したという説があります。

特にオフサイドのルールが改正されてからはDFとMFのフォーメーションが重視され、FWは手薄になり、例えばワントップというフォーメーションもあります。

とにかく守備を堅くして味方のゴールへ相手のボールを寄せ付けないことが、勝つための最低条件であることは、最近の多くの強豪チームの試合を観ていても分かります。

相手選手にプレッシャーをかける戦術で進化した近代サッカー

サッカーでよく言われる戦術に、「トータルフットボール」というものがあります。GKを除くFW、MF,時にはDFの10人のほぼ全員が攻撃し、なおかつGKを含む全員が守備をするということで、言い換えれば守りながら攻撃するという意味です。

この戦術はプレッシングが基本です。例えばFWが攻撃をしながら相手選手、相手チームに対してフィジカルなプレッシャーをかけます。同時に、MF(場合によりDFも)が全体的にデフェンスラインを押し上げて、中盤をコンパクトな陣形にすることで相手の攻撃の芽を摘み取ります。この際にキーマンになるのがいわゆるボランチで、この動きを統率する役割を持っていることから、ボランチは司令塔とも呼ばれます。

次に、攻撃の面からの戦術には縦と左右(サイド)があり、縦パスをつないでボールを相手のゴール近くまで運び、そこから左右のサイドにボールを散らして攻撃を仕掛けます。このような動きの中で常に相手選手にプレッシャーをかけ続け、たまりかねた相手選手の反則を誘うのもひとつの戦術と言えます。

もちろんこの戦術にはリスクも多分にあって、相手選手の技術が卓越しているとどのようなプレッシングも巧みに避けられてしまい、逆にボールを奪われて瞬時にして攻守が入れ替わってしまって一気に致命的なカウンター攻撃を喫することになります。押し上げていたDFが自陣に戻るのが遅れると、相手にミドルシュートなどでゴールを許しかねません。

FCバルセロナの戦術は、これぞトータルフットボール

サッカーで大切なのは、とにかく相手チームよりも多くの得点をすることで、同時に大切なのは相手にゴールを許さないことです。

そのために重要なのがフォーメーションで、フォーメーションも戦術の重要な一部分です。フォーメーションはいくつものパターンがあって、最近の主流は4-2-3-1あるいは3-4-2-1や3-1-4-2でしょう。いわゆるFWがワントップ、あるいはワントップとトップ下というフォーメーションです。しかし、いざ試合となると相手チームがあるので、フォーメーションにこだわっているようなことはなく、ゴールキーパー以外の10人の選手は、攻撃しながら守備をすることに専念します。

ピッチを走り回る選手全員の動きを見ながら身振り手振りで指示を出す監督は、いわば12人目の選手の役割と同時に、自分が考えている戦術を選手に伝えようとします。

最近しばしば取り上げられるのが、ルイス・エンリケ監督率いるスペインリーグのFCバルセロナの戦術です。

端的にこの戦術を見ますと、
(1)左右のFWは、センター寄りに位置取りをする。
(2)両サイドがいない左右のタッチサイン沿いの場所には左右のMFが縦へオーバーラップする。
(3)その際に空いたスペースは、ほかのMFあるいはDFが位置取りをする。
ということになります。

これぞまさしく、先に述べた攻撃をしかけながら守備をする「トータルフットボール」戦術です。

戦術でこんなに変わるサッカーの戦い方

このようなことからサッカーの戦術を見ると、これなら勝てるという万能戦術は無いにしても監督が意図するフォーメーションと、やる気があるモチベーションが高い選手を適所に、タイミング良く起用するのがベストな戦術と言えます。

例えば、年代は少し古いのですが、ACミランの監督を務めたサッキの戦術はDFの4人をフラットに並べるという守備重視で、DFからFWまでの距離を縮めて中盤をコンパクトにしてプレッシングをかけ、相手ゴールに近いポジションから攻撃をするというものでした。

ところがサッキの次に監督を務めたカペッロは、2人目の守備的MFを導入し、やや後方に重心を置くと言う戦術を用いました。

この場合、どちらの戦術が良いかどうかは別として、いかに監督の戦術がチームの成績を左右するかという典型的な事例と言えます。

身近なところでは、FIFA日本代表監督に新しく就任した、バヒド・ハリルホジッチ監督の戦術がどのようなものかが、今後注目されます。

心技体の揃ったモチベーションが高い選手の積極的な起用も戦術のひとつですが、最近のハリルホジッチ監督の動きを見ていると、海外でプレイする日本選手を発掘するというのも監督としての戦術(手腕)と考えているように見えます。