今はなき!?リベロの事情

2017年9月6日

今はなき!?リベロの事情


特殊なポジション「リベロ」。

サッカー発祥の地はイングランドですから、サッカー用語では主に英語が使用されています。ところがサッカーが世界に広まる中で、英語以外の言語を期限としたサッカー用語が生まれてきました。
その代表的なものが「リベロ」や「ボランチ」でしょう。

リベロとはイタリア語の「libero」で、「自由な」という意味の言葉です。
「リベロ=自由」という意味が分かったところで、その言葉の意味がサッカーにどう関わるのか気になりますよね。
今回は、自由という名を冠する特殊なポジションであるリベロについて、解説していきましょう。

■リベロというポジションの役割

リベロとは「サッカーの試合でポジションに関係なく『自由』に行動し、攻撃にも参加する守備的プレーヤー」という存在のことです。

本来は守備を担当するポジションであるディフェンダーが機を見て前線にあがり、まるでフォワードのように攻撃に貢献するのがリベロに与えられた役割です。
この際、本来ディフェンダーが守るべきスペースが空くのを、守備的なミッドフィルダーであるボランチがカバーするのが通常です。

実は最近では、リベロという言葉はほとんど使われていません。
2000年代からサッカーファンやサポーターになった人の中には、「リベロ」というとバレーボールでレシーブを専門的に担当するポジションを先に想像した人が多いかもしれません。
サッカーの実況放送でも、最近では「リベロ」という表現が使われることは稀なようですが、一時期のサッカーでリベロが重要な役割を持っていたことは事実です。

過去を振り返る形になりますが、サッカーのリベロという存在や役割についても述べていきましょう。

■サッカーのリベロが攻撃参加するメリット

サッカーでのリベロとはどのような選手を意味するかは、先ほど述べた通りです。
では、ディフェンダーがリベロとして攻撃に参加することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?

ディフェンダーが高い位置にいると守備が手薄になりますから、相手にボールが渡った際に味方は大ピンチになります。
したがって、普通に考えるとディフェンダーがリベロとして攻撃に参加するのはメリットよりもデメリットのほうが多いのではないかと思ってしまいますよね。
しかしその一方で、ここぞという攻撃のチャンスでリベロが高い位置にいれば攻撃に参加する選手の数が多くなりますから、その分だけゴールを決めるチャンスも多くなるのです。

つまり、リベロは試合の展開によってスポット的に必要となるポジションと言うことができるでしょう。

■リベロは空中戦に強い場合が多い

11人いるサッカー選手の中で、フォワードやミッドフィルダーはディフェンダーやゴールキーパーに比べると身長が低い選手が多いようです。
これは敏捷で素早い動きが攻撃に役立つからで、一方、ディフェンダー、特にセンターバック、ストッパー、あるいはスウィーパーは高いボールをクリアしたり、相手選手を身体を張って止める必要性から、大柄で長身の選手が向いています。

ディフェンダーにとって、その長身を生かしたヘディングは強力な武器となり得ますし、身体も大きいので相手選手とのボディコンタクトにもアドバンテージがあります。
これらの点から、本来はディフェンダーであるリベロは空中戦に強い場合が多いと言えるのです。

膠着した状況を覆えそうとしたり、終盤に時間のない中で引き分けや勝利を狙う場合、一瞬で得点を奪える可能性のあるロングボールが多用されますが、そんな時にも空中戦に強いリベロという存在は非常に役立つのです。

ちなみに日本では、田中マルクス闘莉王がセンターバックでありながらヘディングをはじめ攻撃にも積極的に参加する選手として有名で、ボンバーヘッド中澤佑二もディフェンダーながらヘディングの名手として知られており、コーナーキックの際に最前線でゴールを狙うシーンが見られます。

■皇帝ベッケンバウアーに代表されるリベロの役割

本来はスウィーパーであるべきディフェンダーが攻撃にも参加するようになると、どのような結果が得られるのでしょうか。
それを体現した人物が、1970年代頃のドイツで「皇帝」という異名を持った名選手、フランツ・ベッケンバウアーです。

ディフェンダーでありながら、卓越した視野の広さとパスセンス、攻撃力を備えていたベッケンバウアー。
彼はその能力を活かし、自陣で相手の攻撃を防ぐと、味方を使う効果的なパスで攻撃を組み立て、そのまま敵陣深くへ切り込み、最終的には鮮やかなゴールまで決めてしまうという、驚異のプレースタイルを確立しました。


ドイツの皇帝!フランツ・ベッケンバウアースーパーゴール&プレイ集! (再生時間:9分16秒)

ベッケンバウアーの活躍が世界中に知れ渡り、「ディフェンダーが守備専門でなくてもいい」という概念が広まると、~1980年頃までリベロというポジションが盛んになり、ロナルド・クーマンやフランコ・バレージ、あるいはガエターノ・シレアやダニエル・パサレラなどがリベロとして名を馳せました。

しかし、1990年代になると人と人とのせめぎ合いがメインだった戦術から「場所を守る」というゾーンディフェンスという戦術への転換や、リベロの選手が徹底マークされたり故障してしまうと1人の選手の圧倒的な才能に頼ってしまうリベロシステムは成り立たない、という理由からほとんど見られなくなってきました。

■現代サッカーにリベロは不要か

前項でも少し述べましたが、現代サッカーではセンターバック2人とサイドバック2人の4人で持ち場を守る4バックシステムが主流となっており、この場合、守備ラインを維持する必要性や、攻撃に転じた際にはサイドバックがオーバーラップすることで攻撃の枚数を増やす関係で、リベロという役割にメリットが生まれ難いのです。

結論として言えるのは、4バックが強固に持ち場を守り、攻撃時にはボランチやトップ下がパスをつなぐ一方、サイドバックが駆け上がる、という現代のサッカー戦術を主流とする限り、リベロは間違いなく不要ということです。

ですが、サッカーの戦術は時代とともに変化していきます。
FCバルセロナの全員で攻撃を組み立てるスタイルをはじめ、世界中の強豪クラブでは攻撃力を備えたディフェンダーを中軸に据え、自陣から攻撃を組み立てていくシーンがよく見られます。
リベロという役割が見られなくなったにも関わらず、現代サッカーにおいてディフェンダーの攻撃参加の重要性はますます高まっているのです。
こういった戦術の進化の中で、リベロの存在が重要になる時代もいつかまた来るかもしれませんね。